こんにちは!研究者としてフィンランドに移住したダンナです!
僕は日本国内で博士号を取得し、現在はフィンランドの研究機関で研究員として働いています。
この記事では、着任初日に行った教授とのミーティングで驚いた体験を話します。
あくまで僕の個人的な一経験であり、すべてにあてはまることではないことをご了承ください。
職場は過ごしやすい場所であるべき
緊張のなか初日に行った教授とのミーティングでは一言目にこう言われました。
まずは職場を自分にとって心地よい環境にしよう。
同僚のみんなと沢山話して仲良くなってね。焦らなくていいから。
衝撃的でした。さらには冗談交じりでこんなことも。
慣れるまでは勤務中でも外出して買い物してきてもいいし、生活のセットアップも大事にしてね。
研究機関や大学で教授から初日に言われることのテンプレートといえば、
・君には期待している
・覚悟を持ってやってくれ
・たくさん実験をしよう 等に値するようなことでした。
このような僕の経験から、フィンランドに来て言われたこの言葉は予想外すぎました笑
常日頃から、教授には自分に何が用意できるかと声をかけてもらっています。すでにこれでもかというくらい、作業道具、実験器具、共同研究者や応募可能な獲得研究資金の紹介までしてもらっているんですけどね。また、常に公平な関係性で私生活から仕事まで幅広い話をできています。
悔しいですが、こんなことをさらっと言える上司・教授は少なくとも日本国内の大学や研究機関には多くはいないと思います。
北欧流のリーダー像
僕の教授や、経験のある同僚はとても優秀です。競争が激しい研究の世界で継続的に大型の研究資金を獲得していますし、世界的に権威のある学術雑誌に毎年のように論文を掲載しています。
彼らの研究にそそぐ情熱とアイデアの独創性はすさまじく、着任前までは何でもできるヒーローのような存在なんだろうと思っていました。ただ一緒に働き始めて以来、彼らは双方向のコミュニケーションや手厚いバックアップ体制を重視していることを実感しています。
日経新聞に掲載された私のリーダー論というコラムで、厚生労働省元次官の村木厚子さんはこんなことを言っていました。
天台宗の大阿闍梨(だいあじゃり)、故・酒井雄哉さんは、リーダーは『聖』という字を書く、とおっしゃいました。左側に耳、右側に口、その下に王があります。たくさんの人の意見を聞き、自分の考えを整理して、周りに伝える。聞くと語るという2つの力がリーダーには重要、リーダーはみんなの話を聞き、方向を定め、それを語るという重い役割を背負っています。それが認識できました。決め方はさまざまで、部下の言うとおりにするのでもいい。でも決めること、それに最後まで責任を持つということはリーダーにしかできません。
https://reskill.nikkei.com/article/DGXZQOKC2825M0Y2A021C2000000/
(一部改変)
また、鷲田清一さんの著書 しんがりの思想 反リーダーシップ論でも同様のことが述べられています。
右肩下がりの縮小社会へと歩み出した日本で本当に必要とされているのは、登山でしんがりを務めるように後ろから皆を支えていける、または互いに助け合えるような、フォロアーシップ精神にあふれた人である。そしてもっとも大切なことは、いつでもリーダーの代わりが担えるように、誰もが準備を怠らないようにすることである。
しんがりの思想 ―反リーダーシップ論― 鷲田清一
コラムや書籍でこのようなリーダーシップ論を目にすることはありましたが、実際に実行している人に囲まれるのは初めての経験でした。現在の職場では自分が立ち上げた研究テーマのかじ取りを任されることもありますし、今後は半独立したかたちで研究を進めていきたいとも考えています。その時にはチームメンバーの背中を後押ししながら、みんなで一緒に研究を完成させられるようになりたいと思います!
謙虚なリーダーという考え方
ここ10年くらいで「謙虚なリーダー」という概念が提唱され、謙虚なリーダーが職員の精神衛生面や仕事のパフォーマンスに大きく影響することが科学的に実証されつつあるようです。
謙虚なリーダーシップとは
・willingness to see oneself accurately (自らの能力や限界を正確に見積もる意思を持つ)
・appreciation of others’ strengths and contributions (他者の強みや貢献度を正当に評価する)
・teachability (自ら学ぶ姿勢を持つ)
以上の3点の能力を有するリーダーであると定義されています。
https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/orsc.1120.0795
持続可能な社会の実現のために従業員のパフォーマンスが最大化される必要がありますが、出勤しているにも関わらず健康上の問題などから十分に業務を遂行できていない「プレゼンティーズム」が問題視されていました。これまでに、謙虚なリーダーシップはプレゼンティーズムの減少に効果があると科学的に立証されてきました。
しかし、先行研究の大半はアメリカで行われたものでした。リーダーシップ像や人間関係の構築には文化的要因が強く反映される傾向にあるので、文化圏を超えて日本でも謙虚なリーダーシップがプレゼンティーズムの減少に作用するかは不透明でした。
2024年3月に東京大学先端科学技術研究センターの松尾朗子特任助教、熊谷晋一郎准教授らの研究グループから報告された論文では、日本においても謙虚なリーダーシップにより従業員が十分に業務を遂行しやすくするという研究成果が報告されました。
さらに、謙虚なリーダーシップと従業員のパフォーマンスを結びつけるものとして、「自分へのイメージ、地位、キャリアへの影響を恐れることなく、自分自身の意見を表明し能力を発揮できること」が重要だということも示されました。
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20240315.html#comments1
まだまだ新しい概念ですので今後も研究が必要ですが、日本の研究界隈を含む様々な職場でこのような概念が浸透していくといいなと思いました。また、このようなリーダーを育成するための制度が整備されることも必要だと思います。
最後に
フィンランドに来て以来、言語的な障壁は無いと言えばウソになります。英語のマシンガントークで進められる高度な論理展開についていくのは中々大変です。研究の進め方も日本とは全然違うので、なんでも手探り状態からのスタートです。
しかし、教授や同僚がフランクでオープンな雰囲気を作ってくれるので、お互い対等な目線で活発に議論ができています。このような環境づくりのおかげで、異国での慣れない研究生活によるストレスは大きく軽減したと感じています。
自分もいつかリーダー的立場になったときに、新人さんに同じようなことを言ってあげられる人でありたいなと思います。小難しい話になってしましましたが、ここまで読んでくれてありがとうございます!ヨメの語学学校で先生から言われた一言についてもぜひ読んでみて下さい!
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