移住のリアル -フィンランドで就職が難しい理由-

フィンランドでの職探し

2023年に日本-フィンランド間でワーホリ協定が結ばれました。
フィンランドは日本人の中でも知名度が高く、憧れという方も多いですよね。ワーホリ協定により長期滞在のハードルが下がったことで、フィンランドへの移住がしやすくなりました。

ただ、何事にも裏表があるように、フィンランドにも裏の部分があります。
「世界一幸せな国」というイメージとは裏腹に、フィンランドでは仕事を探すのがとても難しいです。

長期滞在を考えた時には、フィンランドの社会がどのようなシステムの下に成り立っているかを知っておくことが重要です。この記事では、フィンランドの雇用システムを紹介しながら、なぜ仕事を見つけるのか難しいかを考えていきます。

事業主の税負担が大きい

フィンランドにも日本と同様にいろいろな雇用形態があります。
参考までにフィンランド語の名称と和訳を紹介します。

・Vakituinen työ
 日本でいう正社員。フルタイム、パートタイムなど様々な形態あり。

・Määräaikainen työ (有期労働、サマージョブなど)
 期間限定の仕事。夏季の飲食店や冬のリゾート地などが多い。

・Vuokratyö (派遣社員)
 派遣会社に登録する形態。Keikkatyö (日雇い)、Urakkatyö (出来高払いの仕事)などの複数のタイプあり。

・Työharjoittelu (インターン)
 主に職業訓練学校で有償あるいは無償で雇用される形態。

日本とフィンランドの雇用に関する大きな違いは社会保険料の負担方法です。

フィンランドには複数の雇用形態がありますが、社会保険料は等しく雇用にのみ関連するのが特徴です。つまり、アルバイトや日雇いのような雇用形態であっても、給与に応じて事業主が従業員に対して社会保障拠出金を負担しなければなりません。

事業主と従業員の税負担を見てみましょう。

社会保険料
事業主と従業員の両方が社会保険料を負担しますが、この負担の大部分は事業主側にあります。
それには年金、医療保険、傷害保険、生命保険、失業保険などが含まれます。

一般的に、事業主側の負担は従業員の総給与の20%強と言われています。
また、雇用者側の負担は総給与の10%程度と言われています。

例えば1000€で一人を雇うとすると、事業主は給与1000€に200€以上を上乗せして負担することになります。さらに、従業員は約100€を負担することになります。

所得税
フィンランドの所得税は日本と同じく累進課税であり、日本でいう住民税と同じような扱いです。
これは従業員が負担します。

所得税と社会保険料を合わせると、従業員の総負担額は給与の45-70%程度に達します。

事業主と従業員が負担する税負担のイメージ図を作成してみました。
どんな雇用形態であっても事業主は給与に上乗せして社会保険費を用意する必要があります。
また、事業主が用意した給与は半分以上が税金として自治体に持っていかれることになります。雇う側が採用に慎重になるのが良くわかります。

社会保険料と所得税に対する事業主と従業員の負担イメージ図

給与による負担額の目安があるHP上に掲載されていました。
40代、独身、控除額を考慮しない場合だそうです。

事業主が用意したお金の50-70%は税金として自治体に持っていかれてしまう。

画像引用先: Taxes in Finland [2023] – A Complete Guide

現地の学歴、職歴、コネが重要

フィンランドの現地企業は、日本人を含む外国人の学歴やスキルを正当に評価することが困難です。

フィンランドの雇用の多くは職務内容とスキル、経験、資格などを限定して採用する、いわゆるジョブ型雇用です。このようなシステムでは、自分が採用条件にフィットし、かつ競争力ある人材だと示すことが採用のために何より重要です。

事業主にとって人材評価のために重要なのが、フィンランドで得た学位や職務経験、そして現地でのコネです。フィンランドで得た学位や職歴があること、そしてそれらが採用条件に見合うことは最重要と言ってよいでしょう。また、フィンランドの就活は推薦状が決め手と言っても過言ではありません。過去の上司や学校の先生などが応募先とコネクションを持つ場合かなり有利です。

繰り返しますが、フィンランドでの人材評価の大前提はフィンランドでの学歴や職歴があることです。残念ながら、日本での学歴や職歴、スキルをフィンランドの企業側が十分に評価するのは難しいでしょう

したがって、フィンランド在住歴が浅い場合、フィンランドでの学位取得歴や職歴、コネがある人に対しほぼ勝ち目がありません。

フィンランド語能力の取得が求められる

観光地ではどこでも英語が通じるフィンランド。
一方、勤務時の主要言語はフィンランド語ですので、高度なフィンランド語の能力が求められます。

たとえフィンランドの大学を卒業した外国人でも、かなり積極的にフィンランド語の習得に努めなければ就業に必要な語学能力には到達しないそうです。

フィンランド語運用能力を身に付けることは一朝一夕ではできません。
フィンランド政府もこの事実を認識しているので、移民に対して手厚い支援をしています。ただ、基本的には1年~数年を要することが大前提のシステムです。数年単位での生活を見込んでいるなら良いのですが、ワーホリのような滞在ではこのような支援は見込めません

ある調査では、40%近くの企業が職場内で英語は使わないと回答しました。したがって、英語のみの仕事を探そうとすると、それだけで選択肢が絞られてしまいます。

あなたの職場では作業言語として英語が使えますか?というアンケートの結果

引用先: Yle, Study: Reluctance to hire foreigners often reflects employers’ lack of English

そもそも、フィンランドの求人情報や就職活動はオンラインベースです。街中のチラシで求人情報を得ることは極めてまれです。

当然、多くの求人情報はインターネット上にフィンランド語で掲載されるので、フィンランド語能力がない人にとってはそれだけで不利です。

引用: Oikotie työpaikat

名前がフィンランド人以外であるだけで就職が不利になることもよく聞きます。
またヨメが通う語学学校の先生は、求人サイトでの募集は氷山の一角で、多くの求人は求人サイト以外で見つかるということを話していました。

不景気

ユーロ経済圏はコロナ禍やウクライナ戦争からインフレを経験し、それに伴い2023年から金利を引き上げています。その影響からフィンランドは不景気真っただ中であり、今後も景気低迷が長引く可能性がとても高いです。

コロナ対策の影響から政府の債務残高が膨らみました。そのため、フィンランド政府は税率の増加、医療や教育への支出削減など急激ともいえる緊縮財政を敷いています。このような政策の影響もあり、現在はフィンランド全体で新規採用や事業展開がしにくい環境です。

前述のように、フィンランドの社会保険制度上の理由から雇用にはコストがかかります。さらに、不景気によって多くの事業主が雇用にさらに後ろ向きになっていると考えられます。

新規採用にコストがかかるとなれば、雇用に見合うだけの価値がある人材が欲しいと事業主が思うのは当然でしょう。言いかえると、なるべく生産性が高く、求める人材像にぴったりな人を雇いたいはずです。

そうなってくるとやはり、フィンランドでの職歴や学歴、語学能力を示せる人材が相対的に有利なのは明らかです。

フィンランド社会のシステムを知る

かなり暗い話が続きました。
フィンランドと言えば「おしゃれ」で「高福祉」と素晴らしい面ばかりが注目されがちです。ただ、「移住」を考える場合には「リアル」を知っておくことも重要かと思います。

移住して以来、どんな環境にも良し悪しがあることを痛感しています。
フィンランドの就職環境はお世辞にも良いとは言えませんが、社会のシステムやトレンドが分かれば対策がしやすいだけでなく、自分の可能性を広げることもできます。誰にでも強みはありますし、誰しもキャリアは違って当然です。

この記事がフィンランドへの移住を考えている方にとって何かの参考になれば嬉しいです。
それでは!Moi moi!

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